マインツ大聖堂/ドイツ
良い景観は、人々を惹きつける
横浜は歴史的建造物が多い街というイメージを持たれる方も多いと思うが、90年代の終わり頃、帝蚕倉庫の一部が解体され横浜地方裁判所の改築が決まるなど、歴史のある建物にとって危機的な状況がありました。
同時期のヨーロッパに目を向けてみると、すでに膨大な歴史的建造物があるうえにその数は増えているという。そしてそれらの建物を目当てに多くの外国人観光客が地方の小都市にまで足を運んでいた。歴史的建造物の数ということで言えば、当時の横浜市は100件にも満たず、そのほとんどが神社仏閣でした。
良い景観は人々を惹きつける。歴史的な建物はもちろん、街並みや四季折々の自然に農村の風景、美しい海や川、活気ある商店街など日本には「景観」という資源が山のようにあります。そのことに気づき、資源となる景観を発掘・活用することで、その地域をはじめ日本全体が元気になっていくだろう。
景観の乱れが進んだ、高度成長期
日本では高度成長期以降、地域の調和を軽視した建物や看板広告が氾濫するなど、各地で景観の乱れが進みました。先進的な地方自治体では、景観条例を制定するなどしてこの問題に取り組みましたが、その強制力には限界がありました。
一方で、環境問題や生活の豊かさへの関心の高まりとともに、景観に対する国民の意識も向上し、90年代終盤の「国立市マンション訴訟」を筆頭に景観に関わる訴訟が増加。法律に基づくルール作りが求められ、2004年の「景観法」制定へと繋がります。
国立市マンション訴訟(東京都)
市の住民などが、通称「大学通り」に建てられた地上14階建てマンションの高さ20mを超える部分の撤去等を建築業者に対し求めた。地域では通りの並木の高さを超えない土地利用を70年以上実施してきた経緯があったが、最高裁で訴えは棄却された。
新宿駅南口周辺
小樽運河と石造倉庫群
地域の景観に目を向ける
景観法は、良好な景観は国民共通の資産であり、国民がその恵沢を享受できるようにすることを理念として掲げており、資産としての景観や街並みを地域の特性に応じて守り、活かすことができる柔軟な制度です。
美しい風景や歴史的な街並みの保全、建物や看板類の規制、新しい道路の整備や賑わいの演出など、制度活用のイメージは多岐にわたりますが、景観法を活用するには、以下に挙げる小樽市の例のように、まずは地域の景観に目を向けてみることが大切です。
小樽運河の保存運動(北海道)
1973年、道道建設のため全ての埋め立てが決まった小樽運河を守るために、峯山冨美氏を中心に市民が立ち上がり、計画に反対した景観保存運動。その結果、運河の半分は埋め立てられずに残された。その後、小樽運河と隣接する石造倉庫群は多くの観光人口を呼び、小樽都心部の復興・再生に貢献した。
美しいまちづくりから、美しい国づくりへ
良好な景観を形成することは、地域の住民や行政職員の意識向上やコミュニティ活動の活性化にも繋がり、来訪者の増加や地域のブランドイメージ向上など様々な波及効果も期待できます。
小樽市の小樽運河や北九州市の門司港レトロ地区など、良好な景観が大幅な観光人口の増加を生むことは、下記に示した数字がそれを証明していますが、長野県の小布施町や滋賀県の近江八幡市のように小さな町にも多くの成功例が見られ、町の規模を問わず効果があることが分かっています。
<観光交流人口増加の例>
- 北海道小樽市ー小樽運河:270万人(1984年)→760万人(2005年)
- 埼玉県川越市ー蔵のまちなみ:199万人(1986年)→760万人(2006年)
- 滋賀県長浜市-黒壁スクエア:200万人(1989年)→670万人(2006年)
- 北九州市-門司港レトロ地区:73万人(1988年)→338万人(2005年)
2004年の「景観法」制定、前年の「美しい国づくり政策大綱」(国土交通省発表)から20年が経ち、まちづくりを推進できる環境は十分に整っています。あとは各地域の皆さんの知恵と情熱で、美しいまちづくり、美しい国づくりをどんどん推し進めてください。弊社がその一翼を担う機会があれば幸いです。
紅葉の富士五湖