小澤勝美 (株)ユー・アール・ユー総合研究所 所長
平成10年頃に歴史的建造物についてコメントしたことがあった。横浜では帝蚕倉庫が一部解体され、横浜地方裁判所の改築が決まり、横浜3塔の一つ横浜税関も解体の噂が流れた頃だ。その後、市民や行政の想いで横浜地方裁判所は外観が形態保存され、横浜税関は主要部分は残され増築が行われた。
当時イギリスでは、歴史的建造物50万件のストックがあり、年間3,000件が新たに生まれていた。ドイツの小都市ガルミッシュ・パルテン・キルヒェンは、人口8万人で約1,000件の歴史的建造物を抱え、年間600万人の延べ宿泊客数を誇った。外国人観光客の60%の人が、印象が良かった観光の魅力として歴史的建造物を掲げ、その力を裏付けた。横浜市では市指定が100件にも満たず、国宝は無く重文級が13件で、そのほとんどが神社仏閣であった。
良い景観は人々をひきつける。歴史的建造物や街並み、四季折々の農村景観、港や丘や川や緑の地域資源、活気ある商店街の街並み等、日本には景観資源が山ほどある。景観法の活用により景観発掘、活用作業が容易となり、皆さんが元気になるだろう。
国土交通省のホームページより引用すると景観法の基本理念は「良好な景観は地域固有の国民的資産」とし、5つの基本理念からなる。(図1)
景観法の主な制度の一覧は図2で示す。
景観法の活用イメージは図3,4のとおりである。
次に、平成25年9月30日現在の景観法の主な制度の実績を紹介する。
1.景観行政団体
全国で598団体を数え、46都道府県、552市区町村に及ぶ。全体で1,742団体なので31.6%が景観行政団体となる。少ない気もするが、都道府県レベルではほとんどが指定を受けている。
2.景観重要建造物
全国で305件、2都道府県、55市区町村であるが、1団体あたり5~6件程度になる。これはだいぶ少ないと思うが今後の指定増に期待したい。
3.景観整備機構
延97法人、18都道府県、49市区町村とこれはかなり少ない数字となっている。景観行政団体の数の5.5%になり、周知活動や教育活動が必要とされそうである。
4.景観協議会
全国で延46組織、2都道府県、32市区町村である。景観資源が豊富にあるこの日本なので、ぜひ協議会を結成して我がまちを皆さんで語れる場を作り、景観まちづくりを進めていくことが必要だと考える。
以上、行政、市民、専門家が一体となり、景観まちづくりを進める環境づくりと実践が求められている。
各種事例については、国土交通省のホームページによく紹介されているのでご覧頂きたい。ここでは長く街づくりに関わってきた事例を紹介する。
横浜元町商店街(図5)
約600mの元町通りに約230店舗の店舗が並ぶ。間口平均約5mの店舗が個性を競い立ち並ぶ。新築の度に元町商人たちの厳しい目が光った。元町通りに無く、個性的なファサードが求められた。街づくりは第1期から第3期の過程がある。
第1期街づくりは、昭和30年代から始まる。歩行者空間を確保するため、1階の壁面1間分をセットバックし提供するものだ。商人として1階の売り場を1間も削るのは苦渋の選択であった。ただ、この形態が平均間口5m弱の店が立ち並ぶことで、個性的でオリジナルな元町通りの景観を生むことになる。
第2期街づくりは、昭和60年に完成するお店が主役の、無彩色で、余計なストリートファニチャーを無くし、電線を地中化し、多くのお客様が安全に快適にお買い物ができ、お迎えする街路づくりだ。ただし、お客様のため車は排除しない。ただ車もゆっくり走るようボンエルフ型の道路線形を採用し、交差点に段差を設ける工夫を行っている。当時流行した歩行者専用街路にはせず、車との共存をお客様のために元町は選択した。もちろん休日には歩行者天国となる。
第3期街づくりは第2期のハード面でのリニューアルを行うと共に、元町の今後の街づくりのソフト面の強化にあり、現在進行中である。いつも危機感を抱えつつ真剣に活動する元町商人にいつも感心する。
元町の元理事長が語る横浜と元町への想いを紹介する。
日本建築士事務所協会連合会での取り組み
1.景観・まちづくり特別委員会
平成24年7月に「景観整備機構活動状況調査」を行い、下記の調査結果を得た。
景観整備機構を受けている単位会は茨城、埼玉、大阪の3会であり、その他2会が指定を予定しており、その他7会が興味を持っているとのことであった。
♦3会に指定に至る経緯を聞いたところ、
ー 茨城会 ー
県庁が移転し、県庁跡地を拠点とした水戸市の街づくりビジョンを提案した事やコミュニティづくりへの講師派遣、見学会の開催等街づくりに強い関心があったため、平成17年に茨城県より指定を受けた。
ー 埼玉会 ー
平成14年より建築文化遺産調査会を立ち上げ、県内の文化遺産の調査、都市計画マスタープランの実態調査、景観整備機構の先進地視察等の活動を行う。平成20年に埼玉県より指定を受けた。
ー 大阪会 ー
阪神淡路大震災よりまちづくり見学会等を多数開催し活動してきたが、境市よりアドバイザー2名の派遣要請があり、その活動を通じて景観まちづくりの重要性を認識するに至り、平成18年に大阪市の指定を受けた。
♦ 景観整備機構に対して行政等からの事業の受託など効果があったかとの問いには、
ー 茨城会ー
無し
ー 埼玉会 ー
効果があった。地域景観資源発掘業務委託や2件の委託があった。また、講師派遣依頼や講演依頼、まちづくりの協力依頼等があった。
ー 大阪会 ー
都市景観資源に関する試行的モデル調査等、景観まちづくりに関する委託が、大阪市で4件、箕面市で1件あった。
♦ 景観整備機構として、今後の活動方針については、
ー 茨城会 ー
現在の活動を続けるとともに、水戸市以外での景観まちづくりプロジェクトを進める。
ー 埼玉会 ー
現在の活動を続けていくと共に、県内の景観行政団体の指定拡大と景観行政団体となっていない市町村へのPR活動を行う。
ー 大阪会 ー
景観まちづくりプロ養成講座修了者の活動の場の模索と景観整備機構プロジェクトチーム活動の活性化を図っていく。以上、調査結果である。
神奈川県建築士会での取り組み
1.ヘリテージマネージャー養成講座
昨年度に神奈川県と神奈川県建築士会が主催する「第5回 邸園(歴史的建造物)保全活用推進員養成講座」通称:ヘリマネ養成講座に参加した。応募者の中より抽選により30余名が参加した。7月より翌2月まで13日間に及ぶ講座である。原則1日4時限で1時限が約1時間半である。各時限の主な表題を示す。
「邸園文化圏再生構想と推進員」「街並み調査と町づくり」「和風住宅の様式と形成過程」「造園」「近代住宅史1,2」「景観法と歴史まちづくり法」「修復概論」「歴史的建造物調査の実際」「実測調査演習1,2」「所見作成演習1,2」「イタリアの歴史的建造物の保全と公開」「護国寺月光殿現場見学」「歴史的建造物と防災」「アートマネージメント」「まちづくりNPOの活動・運営」「歴史的建造物の活用事例~松陰コモンズ」「横浜市 歴史を生かしたまちづくり」「登録文化財に住むという事」「歴史的建造物の発見(町歩き)」「私たちが見つけた歴史的建造物 発表」である。
月2回ほどのペースで行ったが、成果の発表に向けての調査もしたことから、ハードな8カ月であった。
今年3月15日(土)には第3回神奈川ヘリテージマネージャー大会(図6)が行われ、活動報告と第1回全国ヘリテージマネージャー大会の報告もされた。
まだ200人弱の卒業生だが、景観まちづくりには人づくりが重要なポイントとなる。建築士だけでなく一般市民も参加できるので、景観まちづくりの裾野を広げるきっかけにもなる。
2.神奈川県建築士会 景観整備機構委員会(図7)
(景観部会、地域貢献部会、スクランブル調査隊部会)
(1)景観部会
昨年、(一社)神奈川県建築士会景観整備機構が川崎市より指定された。平成25年9月30日現在で97法人の景観整備機構が指定されているが、その約半数が各県建築士会である。
神奈川県建築士会は古くから委員会活動や部会活動が盛んであり、景観まちづくり活動への支援は
ア 歴史的建造物の調査・助言・支援
イ 景観まちづくり活動等への助成
ウ 子供を対象にした、たてもの探検やまち探検
エ 川崎支部を始めとする各支部による景観まちづくり活動
等が挙げられる。
(2)地域貢献部会
かながわ地域貢献活動センターは平成16年より約20のまちづくり団体に総額400万円強のまちづくり助成を行っている。
旧モーガン邸の保存と活用や道志村の水・間伐材を生かすブランド化事業、カトリック片瀬教会の調査等への助成である。当初は6件程度の応募があったが、最近は2件程度と減少している。厳しい建築設計業会や建設業会の環境が影響しているのだろうか。
(3)スクランブル調査隊部会
歴史的建造物の調査や保存活動、まちづくり活動への協力等を行っている。歴史的建造物がやむなく解体される前に建物や敷地状況を調査し、記録するとともに、その地域の歴史を辿りながら学び研究して、所有者が建物を保存する手法や活用する方法などを探り、地域のまちづくりに寄与することを目的としている。
神奈川県建築士事務所協会での取り組み
1.景観・まちづくり専門委員会
平成24年度より神奈川県建築士事務所協会が景観整備機構指定に向けて活動している。
(1)神奈川県内の自治体へのアンケートの実施
平成24年度の調査で、平成25年5月22日現在33市町村の内23の回答があった。
その内景観行政団体は20有り、景観整備計画があるのは12であった。
それぞれの自治体で大切にしたい景観が多数あり、無いと答えた自治体も3あった。
また、景観整備機構を指定することが可能な自治体は7であった。
ただ、その他の10自治体については指定済みの自治体や必要があれば行うとの意見が多かった。
今後、指定可能な7自治体を中心に景観まちづくりの資源探しやヒアリングを行い、各支部の会員も協働しながら景観整備機構指定に向けて活動していく。
(2)景観整備機構指定に向けての勉強会の実施
講師をお呼びして年1~2回開催している。
平成25年7月は静岡県建築士会景観整備機構副代表の方を講師にお招きして、景観整備機構の活動実績や景観整備機構の立上げ方についての講演を頂いた。
平成26年2月は神奈川で唯一景観整備機構に指定されている(一社)ひと・まち鎌倉ネットワークの代表を講師にお招きして、活動紹介や景観整備のポイント等を講演頂いた。
景観法には各種制度があり、その町に合った諸制度を活用し、景観まちづくりを推進していきたい。
国土交通省のホームページより引用すると
景観法が平成16年6月に制定され、今年で10年目を迎える。「美しい国づくり政策大綱」が前年に国土交通省から発表され、ようやく「美しい国日本」を旗印に景観まちづくりを推進できる環境が整った。あとは皆さんの知恵や情熱で、皆さんのまちから美しいまちづくりを推進して頂きたい。